運転する高齢者の親に免許返納を説得する方法 お盆や帰省した時にしたい『高齢者運転観察チェック22』【お盆休みに読みたい記事】



 高齢者の親が自動車の運転をしていることに「危なくないか?」「事故を起こさないか心配」と思う人は多い。
一方、親は「まだ運転できる」と思う人が多く、免許返納を勧めると「年寄り扱いするな!」と怒りをかう場合もある。
高齢者の親に免許返納を勧めるにはどうすれば良いのだろうか? 

九州大学大学院教授で交通心理学が専門の志堂寺和則さんは「まずは
『親が安全に自動車運転をできるのか?』を親の運転する自動車に同乗して確かめてほしい」と話す。
志堂寺さん考案の『高齢者運転観察チェックポイント22』と、上手な免許返納の勧め方を紹介する。

(こちらの記事は「AERA」 2022年8月15-22日合併号から再編集したものです。)

「まだ運転できる」と思う高齢者の親に自動車免許返納を説得するのは難しい

「高齢者の親が自動車運転免許を更新できなかったのでホッとした」というエピソードを紹介する。

「お父さん、免許更新できなかったよ」

 東北地方に住む40代の女性は、実家の母からの報告を聞いてホッと胸をなでおろした。
父が免許更新のために受けた認知機能検査に通らなかったという。

 83歳になる父は、認知症の疑いがあると診断されていた。
「運転は控えて」と医師から言われていたが、免許返納については進展していなかった。
かつてタクシー運転手だった父のプライドに遠慮したのか、自分が代わりに運転すればいいと考えたのか、
母は父に対して返納を強く勧めることをしなかった。一刻も早く返納すべきと考えていた女性と意見は食い違った。

 一度、母の不在時に父が一人で車で出かけた形跡があったと聞き、肝を冷やした。

「認知機能検査の存在はありがたいです。家族が呼びかけても返納は現実的に難しいこともある。
検査が通らなかったことで本人も納得したようです。事故を起こす前で本当によかった」(女性)

専門家が「高齢者の親が自動車を安全に運転できるか?」を判断するポイントを解説

警察庁の発表によると、2021年の自主返納の数は51万7040件。
前年より3万5千件ほど減ったが、9年前の12年には12万件程度だったことを考えると、
返納の選択肢もだいぶ広まっていると言える。

 とはいえ、まだ運転を続けたい親たちと、加害者や被害者になる前に運転を
やめてほしい子たちの間では、すれ違いが発生しがちだ。

 この問題にどう取り組むのがいいのか。
九州大学大学院教授で交通心理学が専門の志堂寺和則さんに教えてもらった。

 まずはこの夏、久しぶりに帰省するなら、親の運転をチェックするいい機会だ。

09年以降、75歳以上は免許更新時に認知機能検査を受けることが義務付けられているが、
これはあくまで認知機能の検査であって、運転能力自体を判定するものではない。

※運転に必要な身体機能が低下して、視野が狭くなる、繊細なペダル操作ができなくなる、
といった事態が起きていないか、確認するには助手席に乗るのが一番だ。

「判断のポイントは、乗り心地がいいかどうかです」と志堂寺さん。具体的なチェックポイントとして挙げている
22項目も参考にしてほしい。「前はこんなことはなかったのにな」という変化が感じられたら要注意だ。

『高齢者運転観察』のチェックポイント22

高齢者の親が運転する自動車に同乗して下記チェックポイント22を確認しましょう。

□車にこすったようなキズはついていないか
□車が汚れたままになっていないか
□鍵の置き場所を忘れていないか
□急ブレーキや急加速が増えていないか
□まっすぐ走れずにふらついていないか
□車の流れにスムーズに乗れているか
□一時停止は停止線手前で止まれているか
□近づいてから変わる信号に気づけているか
□信号のない見通しの悪い交差点で左右確認が充分できているか
□右左折や車線変更のウィンカーを忘れてないか
□他車からクラクションを鳴らされていないか
□左折の際に巻き込み確認ができているか
□右折の際に右奥からの歩行者を確認できているか
□曲がる際にハンドルを手荒に操作していないか
□反対車線を走りそうになっていないか
□バックでの駐車に苦労していないか
□駐車枠内へ入れるのに何度も切り返してないか
□駐車枠の中央に止められているか
□目的地や道順を忘れたりしていないか
□道路標識の意味を忘れているようすはないか
□乗っていて車酔いしなかったか
□ヒヤリ、ハッとすることはなかったか

「危ないから自動車の運転はもうやめて!」と免許返納を説得するのは逆効果

上記『高齢者運転観察チェックポイント22』のいくつ当てはまれば返納を勧める、という基準はないが、
総合的に判断して「返納するように説得しよう」と決めた場合でも、急に切り出すのは得策ではない。

 説得を成功させるために最も大切なのは、「準備」だと志堂寺さんはいう。
車を手放した後の生活に対する準備という意味でもある。期間を限定して、
車のない生活をシミュレーションしてみるのもいい。

「親御さんは、車を手放したら買い物や通院はどうするんだ、と不安を感じているはずです。
それに対して例えば買い物はネット通販を利用できるよとか、家族としてこういう手伝いができるよ、
という提案が必要。手放した後の生活ビジョンが描けなければ、説得はうまくいかないでしょう」

 鉄則は、親がどう感じているのか、想像しながらアプローチすることだという。

 家族で旅行に出かけたり、子どもたちの送り迎えをしたり。
親の運転免許には、家族の歴史と思い出がたくさん詰まっている。
たまにしか帰ってこない子どもから「危なっかしいからもう運転はやめて!」
と頭ごなしに言われたらどう感じるか。

 志堂寺さんは「説得は理詰めではなく、気持ちが大切」と強調する。
子どもから“年寄り扱い”されたと感じれば、さらなる心理的反発を招く。
車にまつわる親の思いや誇りを理解し、その上で事故を心配している気持ちや生活のサポートの
申し出を真摯(しんし)に伝えたい。

補償運転という選択肢

一方、同乗観察で「まだ運転を続けても大丈夫そう」と判断した場合はどうするか。

 やがてくる返納の時まで安全運転を続けてもらうため、「補償運転」を勧めるのも手だ。
補償運転とは、加齢などに伴う運転技能の低下を「補う」運転を意味する。

「補償運転の目的は、高齢ドライバーが苦手とするような場面で運転しないようにすること。
例えば雨の日や長距離、行ったことのない場所への運転を避けるといった方法があります」

 いつも行っているスーパーや田畑に行くときだけ、安全な道を選んで運転する、など状況に合わせて話し合うのがいい。

 AERAが実施したアンケートでは、免許返納によって親が「ふさぎ込んでしまって不健康になりそう」と心配する声や、「返納してから認知症が悪化した。返納を促したのがよかったのか悪かったのか」と後悔する声も聞かれた。

「仮に強制的に車を取り上げて事故の心配がなくなったとしても、親御さんの人生はそれで終わりではありません。車に代わる生きがいを一緒に探してあげることもまた大切なサポートです」(志堂寺さん)

(編集部・高橋有紀)

https://dot.asahi.com/articles/-/197900?page=3より転用させて頂きました。

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