国立がん研究センターの2023年の発表によると、日本人で一生のうちにがんと診断されるのは男女共に2人に1人、がんで死亡する割合は男性が4人に1人、女性が6人に1人とされています。皆さんも知り合いや身近な方で、がんと診断されたり治療を受けたりしている方がいらっしゃるのではないでしょうか。心療内科の医師で産業医もしている私は、がんと診断された方から治療法の相談を受けることがあります。多くの方は、担当医の説明に納得しながらも「この治療法しかないのだろうか」という疑問や不安を抱えているのです。 (文 海原純子)
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◇「ドクターショッピング」ではない
死に至る病というイメージをお持ちの方が多いがんですが、現在は治療法が日々、飛躍的に進歩しており、仕事を継続しながらの治療が可能な場合も増えています。それだけに、病名を告げられた時、「治療方法についてもっと知りたい」「他の医師や専門家の意見も聞いてみたい」という気持ちが生まれると思います。
こうした場合に行われるのが「セカンドオピニオン」という方法です。ただ誤解してはならないのは、セカンドオピニオンは他の医師を探す「ドクターショッピング」や転院を意味するものではないということです。現在の担当医の下での治療が前提で、患者さんが自分の治療法を決めるためのサポートとして他の医療機関の専門家から意見を聞きます。現在の担当医から受けた説明について理解・納得した上で、他の医師の意見や別の治療法の可能性などを聞き、病気や治療への理解を深めることが目的です。
地域で専門的ながんの治療を行う病院は「がん拠点病院」と位置付けられています。こうした拠点病院では、がんの標準治療(最も安全性が確立し、効果が期待できる治療)を基に行いますから、他の病院でも診断や治療法に大きな差が出るケースはまずありません。しかし、多くの医師の意見を聞くことで治療に関する自分の知識を深められます。
◇不要な場合もあります。
※セカンドオピニオンが必要ない場合があります。病気がごく早期で他の医師の意見を聞くまでもなかったり、病気が進行していて一刻も早く治療をしないと命の危険があったりする場合です。
ですから、担当医にセカンドオピニオンの必要性などを聞いてみることが大事です。
◇担当医の気分を損ねないか?
セカンドオピニオンは担当医が検査データなどを含めて紹介状を書きます。その行為は「診療情報提供」として病院の収入になるので、医師に手間をかけさせているのではないかといった心配は必要ありません。どこの病院のセカンドオピニオン外来を受診するかは、地域のがん拠点病院の情報から探したり、病院の「がん相談支援センター」に相談したりするのがいいと思います。
受診する先のセカンドオピニオン外来に連絡して手続きをします。セカンドオピニオンは自費での診療になります。受診する際は、あらかじめ質問したい内容をメモにしておくほか、信頼できる家族や知り合いなどに一緒に行ってもらえば安心感につながります。
結果を記した報告書は当日渡される場合もあれば、後日担当医に送られる場合もありますので、セカンドオピニオンの担当医に聞いておくといいでしょう。
◇自分が受診できない場合はどうするか
入院中だったり、呼吸器をつけていて消耗がひどかったりといった理由で、患者さん本人がどうしてもセカンドオピニオン外来に行けない場合、本人の同意の下で医療情報提供書を持った家族が受診できる場合があります。病院により異なるので、事前の問い合わせが必要です。
また、セカンドオピニオンの結果が出たら担当医と再び話し合い、治療法について再度確認して納得のいく治療を受けることが大事です。
最近はインターネットでさまざまな情報が氾濫気味です。中には根拠がない情報も多いので、正しい情報にアクセスしてください。発信者は誰か、広告ではないか、根拠はあるのか、などに注意して判断することが必要です。(了) (2023/07/11 05:00