一般の人が利用できるカフェを、高齢者のデイサービス(通所介護)が併設する動きが広がっている。
地域の人たちとの交流を進め、開かれた施設に変えたいという思いがある。
外部の人が日常的に来ることで、利用者の表情が明るくなるなどの効果も出ている。 (五十住和樹)
「熱いから気を付けて」。四月下旬の午後、東京都板橋区の地域密着型通所介護「キーステーション」に
あるカフェを訪ねると、施設利用者の女性がお茶を出してくれた。
地元の商店街内にあり、コーヒーやケーキを数百円で提供。
近くのテーブルでは、お年寄りたちが地域の男性と宝石形のせっけん作りやカードゲームを楽しむ。
カフェの客が利用者と話しながら一緒にコーヒーを飲む様子も、いつもの風景という。
「利用者が『また来てください』と玄関へ送り出すなど能動的に動くので、受け身のデイサービスにならず、
雰囲気も明るくなる」と、運営法人の太田浩史代表理事(42)は話す。
太田さんは元々介護の仕事に携わっており、地元商店街の活性化にも貢献できるとして、
二〇二〇年六月に商店街組合に相談し、デイサービスを立ち上げた。
「多世代交流の場所がない」「シャッターを下ろした店が多い」などの課題解決に役立つと考えたからだ。
デイサービスの利用者は、商店街のちょっとした困り事を手助けするのが特長。
各店舗の領収書の押印や書類の封入作業を引き受け、飲食店で注文を書き留める用紙や店に
飾る花なども手作りする。
利用者と介護職員が完成品を持ち込むうちに、店主らとも自然と顔見知りになって会話も弾む。
施設長代理の森近恵梨子さん(33)は「子どもたちや地域の人と交わると、お年寄りのやる気が高まる」と話す。
一般的なデイサービスでは利用者がそろって体を動かしたり、折り紙などを楽しんだりするが、
太田さんは「やらされる形では行きたくなくなる」と指摘。
目標は「自分は必要とされている」と誰もが実感できる居場所だ。
「ここでは施設側が利用者に対して『力を貸してください』と頼む。
利用者の『人の役に立っている』という思いが積極性につながる」と説明する。
★五年三月にオープンした名古屋市中川区の通所介護「はじまるCafeほほえみ」も、
デイサービスの一角にカフェがある。
管理者の森本恭一さん(55)は「閉鎖的な空間という施設のイメージを変え、近所の人も認知症の人も、
おいしいコーヒーを飲みながら一緒にくつろげる心地よい場所にしたい」と語る。
森本さんによると、職員の楽器演奏に合わせた歌や体操、学習のワークショップも開催。
デイサービスの利用者だけでなく、カフェの客にも地元の食材を使った本格的なランチを提供している。
名古屋には喫茶店文化が根付いているためか、利用者は「近所の喫茶店に
お茶を飲みに行く」という感覚で通うという。
日本デイサービス協会の森剛士(つよし)理事長(53)は「カフェを併設して地域とつながりができるのは
デイサービスにとってメリット。
各地で増えつつある」と話す。ただ、介護保険施設は不特定多数の人の利用を認めないのが原則で、
カフェを併設する場合には、間に仕切りを設けるなどの指導をする自治体もある。
森さんは「デイサービスの財務基盤を確立させながら運営することも大切」と指摘している。
https://blog.mikuni-ohaka.com/archives/60947